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無溶接金具固定について
溶接は部材同士が溶け込み一体化しますので、所定の強度が得られ、一体化した構造物になりますが、無溶接金具固定は部材同士を(挟む・引っ掛ける・締めこみ圧着させる)等により固定しているだけですので、(弱い・一体化しない・ずれる)といった弱点があります。 また、場所打ち杭鉄筋かごの無溶接金具固定では、Uボルトや特殊金物により異形鉄筋と補強リング、または異形筋同士を固定するために、複雑な問題が山積しています。
無溶接工法が完全に浸透していないのは、信頼性が低いと施工者から敬遠されるからであり、特に建築など常に数十tある鉄筋を扱うには、現状では無理があるといわざるを得ません。 しかし、無溶接工法の技術的課題はほとんどなくなってきています。 正しく向き合えば安全に施工できますが、標準試験がない現状では、安全施工の根拠について説明責任が果たせません。
無溶接金具固定の試験
無溶接金具(無溶接固定特殊金物やUボルト)の固定力は、吊筋時の荷重方が最重要ですので、引張試験で調べます。 鉄筋かご建て起こし時の様々な方向に金具にかかる負担は大したものでなく、問題になることはありません。
無溶接金具(無溶接固定特殊金物・Uボルト)固定した補強リングを吊上げると、鉄筋に引抜荷重がかかるので、同じ方向に引張試験をします。
引張試験からわかること・支持力について
引張試験グラフから分かることは、固定位置が必ずズレるということです。 Uボルトであろうと何であろうと例外はありません。 実際の引張試験では0位置がハッキリ定まらないために、このグラフでは便宜上初荷重5kN時点を0としています。 理想的なグラフですが、金具の種類によっては異形筋の節形状によりグラフの波形はかなり乱れます。
このグラフの最大値は80kNを超えています。 ㎏換算で約8000㎏、金具1個で8tまで吊れると考えて良いのでしょうか。 このような値は無責任極まりないものです。 最大値を記録するまでに、固定位置は変異し、金具は塑性変形を起こし、一部は金具よりも硬い鉄筋で削られています。 肉眼で変形を確認できる時点までに、多くのグラフ変化があるものです。
異形棒鋼の無溶接固定は、金具の弾性による締付と鉄筋の節と金具の極わずかな引っ掛かりによります。 横節鉄筋の節の谷にがっちりと咬むタイプの金具であっても、リブにより僅かな引っ掛かりしかなく、鉄筋の方が硬いために金具や補強リングが削れますので無溶接金具固定は不安定なものといえます。 安全を考慮した許容支持力は、どのように設定すればいいのか、大きな課題です。
異形鉄筋は、鉄鋼メーカー毎に節の形状と高さが異なります。 無溶接金具と鉄筋の接触状況(引っ掛かり)は様々に変化しますので一律に取り扱えず、丸鋼のようにはいきません。
弾性(2023年3月26日 (日) 20:01:Wikipedia)
無溶接金具の変形
無溶接金具は、金具の弾性域で使用すべきものです。(極端にいうとゴムのような、縮む力で固定) そのため、塑性変形(変形して形状が復元しない)があってはなりません。 塑性変形すると、金具は単に引っ掛かっているに過ぎず、その引っ掛かりは前述のように極わずかな、どのようなはずみで外れるかわからない程度の極めて不安定なものです。(作業中の場所打ち杭鉄筋は静止状態ではなく、鉄筋により金具や補強リングは徐々に削れます)
注意すべきこと
鉄筋かごは重量物であり、無溶接金具固定には共通の弱点がありますので、溶接と同じように扱えば事故を起こしてしまいます。 場所打ち杭鉄筋かごの重量は近年増大傾向であり、50t以上も珍しくなくなってきています。 必要強度を得られる溶接と違い、実用的で確かな許容支持力の設定と、支持力に見合った取付/施工方法/適切な管理をしなければならず、これを怠った状態の事故は重過失とされる可能性があります。
標準試験ではないメーカーによる引張試験結果は、0位置設定はじめ条件設定が全て異なるために、引張試験結果の比較や異なる無溶接金具製品の代用はすべきではありません。 丸鋼に対する金具固定は単純でしょうが、異形鉄筋は、節と金具の引っ掛かりにより大きな値が出ますが、金具単体の引っ掛かりは当てになりません。 加えてどのように許容支持力を決定するルールもありません。 以上から単なる固定金具としての取扱いはリスクが大きいといえます。
施工上の課題と管理
無溶接金具は、指定のトルクで締付固定をし、増し締めトルク管理をしますが、引っ掛かりは管理のしようがありません。 そのため、低めに設定した許容支持力に加えて余裕をもった検討と、偏荷重にならない施工要領が不可欠です。
施工者の心理として無溶接金具固定は安心できないものであるため、強く締付ようとする作業者が多く、オーバートルク締付されることが非常に多いようです。 他にも無溶接金具固定を信用できないために、吊筋開始時に鉄筋かごを勢いよく旋回させて衝撃を与え確認するような者もいるために、注意が必要です。
上記は、残念ながら無溶接工法の信頼性の無さからでしょうが、オーバートルク締付や荒っぽい鉄筋かごの扱いは、事故原因になりかねず、心配故の行動が逆に重過失に問われる事故原因になります。 溶接とちがい、無溶接金具で組立の鉄筋かごは、移動のために転がしたりすると程度の差はあれ、金具が緩みます。 鉄筋かごを動かせば無溶接金具の緩みが生じるので、増し締めトルクチェックは吊筋前の必須管理項目です。
無溶接金具の緩みの原因
無溶接金具の緩みは、ボルトナットの緩みだけが原因ではありません。 ナットが緩まなければ大丈夫と考えがちですが、固定するものは異形鉄筋です。 無溶接固定では金具の締付だけでなく、極わずかな異形鉄筋の節と金具の引っ掛かりが大きな部分を占めており、鉄筋かごの移動その他で引っ掛かりが外れると緩んだ状態になります。 これは無溶接固定を難しくしている原因のひとつです。
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