巨大地震と無溶接工法

地震の大きさとは?

地震のニュースでよく耳にするマグニチュードは、震度とどうちがうのでしょうか。

地震のエネルギーの大きさ(規模)をマグニチュード、震度は観測点における地盤の揺れの大きさで、震源地からの距離や深さや地盤条件により大きく変化します。  感覚的にイメージしやすいのは揺れである「震度」ですが、震度7(最大震度)を記録した地震の大きさは、阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)や熊本地震のM7.3と東日本大震災のM9.0では地震エネルギーが約350倍といわれています。  どうして350倍なのかは(「国土交通省四国地方整備局ホームページ」の「マグニチュードと震度のちがい」)が分かり易いと思います。 

同じ震度7でも地震の規模は全く異なります。  右は上の図を同じ大きさにした比較です。 

 マグニチュード(2023年10月31日 火)01:01:Wikipedia)

 震度(2023年4月15日 (土) 10:42Wikipedia)

 震度7(2024年1月8日 (月) 18:32Wikipedia)

 震源(2023年8月3日 (木) 15:00Wikipedia)

 長周期地震動(2024年1月7日 (日) 04:42Wikipedia)

 南海トラフ巨大地震(2024年1月3日 (水) 07:14:Wikipedia)

 福島第一原子力発電所事故(2024年1月5日 (金) 15:04Wikipedia)

 東北地方太平洋沖地震の前震・本震・余震の記録(2023年12月30日 (土) 13:53Wikipedia)

震度7について

震度8や9はありません。  震度7といいますが、10段階の一番上を指します。  しかし地震の規模がM8以上で震源が浅く観測地点に近ければ、従来の震度7の比ではない極めて激しい揺れになる可能性があります。  1949年震度7(観測適用)導入当時の定義は「激震. 家屋の倒壊が30%以上に及び, 山くずれ, 地割れ, 断層などを生じる」でした。 阪神淡路大震災後の1996年からは計測震度になり、計測震度6.5以上が震度7とされています。 計測震度の算出方法(気象庁)

下図は地震の震度やマグニチュードその他を表にしたものです。(クリックすると拡大)

令和6年能登半島地震 気象庁地震情報画面 M7.6 震度7を観測 

巨大地震(2024年1月4日 (木) 01:05:Wikipedia)

令和6年能登半島地震(2024年1月10日 (水) 09:38:Wikipedia)

建物や橋などを支える基礎杭

地盤が柔らかい場所に建物や高架橋など重い構造物を造るには、支持層と呼ばれる地層まで届く杭をつくり支えます。  地震時の液状化現象では、マンホールなどは浮き上がって地面から突出しますが、重量のある建物等の構造物は不等沈下します。 そのような影響を受けないよう支持層まで到達させる杭を支持杭といいます。(支持層まで到達させない周辺摩擦による杭を摩擦杭といいます) 

液状化現象(2024年1月4日 (木) 15:11Wikipedia) 

ひずみ計(2023年10月5日 (木) 09:47:Wikipedia)

液状化現象とは(国土交通省)

場所打ち杭

基礎杭のうち、現地でつくる鉄筋コンクリート杭を場所打ち杭といいます。  構造物の大型化に伴い、支持層への確実な定着と大きな支持力を得るために大口径杭の採用が増加しています。      

場所打ち杭の施工要領図(クリック拡大)

場所打ち杭にはオールケーシング工法やアースドリル工法・リバースサーキュレーションドリル工法などがあり、杭孔に円筒形の鉄筋かごを連結しながら挿入し、コンクリートを打設して杭をつくります。  経済性に優れ、掘削土から地盤を確認できることから信頼性が高くメリットが多い杭です。 

場所打ち杭は、地震に遭っても橋やビルなどの構造物をしっかりと支えるものでなければなりません。 (杭のために道路や橋やビルなどが使用できなくなっては困ります

Details

※大地震に備えて、場所打ち杭鉄筋は太径・高強度化し、杭径・杭長も増大傾向にあり、無溶接施工の難易度と危険度は格段に上がっています。

※高強度鉄筋の現場溶接は品質不良が発生しやすく、この理由からも無溶接工法が不可欠です。 そのため土木工事では道路橋示方書により「溶接をしない」ことになっています。

場所打ち杭の鉄筋

場所打ち杭は既に述べたように、掘削完了後に鉄筋かごを連結しながら建て込み、コンクリートを打設します。  コンクリートは圧縮に強いですが引張には弱いので、引張に強い鉄筋を入れた鉄筋コンクリート杭としています。

鉄筋かごを円筒形に組み立てる部材固定方法には、溶接固定と無溶接固定(金具)があります。 現場における溶接は品質が安定しにくく、地震により溶接不良個所や溶接周辺部が破断することがあります。  この点で無溶接固定(金具)で組み立てられた杭は強いといえますが、無溶接固定(金具)の弱点ゆえ、施工の難易度が極めて高くなります。

無溶接工法のはじまりと溶接からの移行

無溶接工法は完成後の杭には良いものですが、施工するには入念な検討と手間とコストがかかります。   しかし1980年代初頭には、某県議会議事堂工事で心ある発注者により番線結束による組立が試行されていたようです。   固定力不足で伸びやすい番線結束であり、組立後に平らに潰れて実用化に至らず失敗したということですが、溶接欠陥や熱影響が構造筋に与える影響を念頭に行われたものです。   

阪神淡路大震災後の調査では溶接部の破断が多く見受けられたようです。  某鉄鋼メーカー技術者のブログ(現在閉鎖)では、 「高速道路の鉄筋コンクリートの橋脚が635mにわたって倒壊している事をテレビで見た時、背筋の凍る思いがしました。歩いて小一時間のところでしたから、早速現場に勉強に行きました。」とあり、機械式接手や不良溶接について新聞記事・業界紙を引用して不良率が試験体では0コンマ台だったのに対し過半数だった、道路橋脚などの土木構造物で特に多かったと書かれていました。   無溶接工法は阪神淡路大震災の後に、住宅・都市基盤整備公団関西支社を中心に、関係業者からアイデアを募り試験杭施工を繰り返すところから実質的に始まりました。

東日本大震災でも同様被害が多く発生し、翌年2月に道路橋示方書が改訂され、土木工事(公共工事)では無溶接工法施工されています。 

※平成24年道路橋示方書の改訂で「鉄筋の組立てにおいては、組立上の形状保持などのための溶接を行ってはならない。」と明確に記載され、その後、平成27年3月25日の事務連絡『「場所打ち杭の鉄筋かご無溶接工法の設計・施工」について』が国土交通省内にて通達された。   また、同時に杭基礎便覧および杭基礎施工便覧が平成27年3月に改訂され、鉄筋かごの無溶接工法に関して明確に記載された。  現在、設計者または施工者が新技術NETISに登録された「固定金具」部材等を用いて、無溶接工法による鉄筋かごの設計を実施している状況である。      

※(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部技術委員会
「場所打ち杭の無溶接工法による鉄筋かごの課題と対応について」より引用

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